主治医から職場復帰という診断書が出たら復職させないといけないか
メンタル不調による休職者が増えています。休職者が復職する際に、主治医から職場復帰可能の診断書が出ます。診断書を会社に提出して、復職の手続きとなるわけですが、主治医からの診断書を受け取ったら、その通りに復職させなければならないのでしょうか?どれ程の効力を持っているのでしょうか?
休職者や主治医だけではなく、会社側も診断書の通りに復職させなければならないと考えていることが多いようです。
主治医と産業医、両方の立場を経験している身からすると、主治医の診断書を特別に重要視する必要はなく、それに従わなければならないということもありません。
主治医からの診断書は復職のゴールではなく、どちらかと言えばようやくスタート地点に立ったくらいと考えるべきでしょう。
よくある一例
よくあるケースをご紹介します。
メンタル不調で休職していた社員が突然、主治医からの復職可能という診断書を持って会社にやってきた。前触れのない訪問に人事や職場は困惑
診断書には来週から復帰可能と書いてあるが、職場の準備はまったく整っていない。本人は診断書通りに来週から復帰するつもりらしく、診断書にもそのように書いてあるはずだと主張。
主治医の診断書には従わなければならない、ということで来週からの復帰のために職場は大慌てで準備。
準備は不十分ながら社員は翌週に復帰。しかし、集中力や体力が持続せず十分な働きができない。しかし、それに対して上司は仕事を命じることができない。日がたつにつれ、本人にも疲れが見え始め、休みがちに。そして、最終的には再びは休職。
主治医の診断書通りに復職させたが、仕事を続けることができる状態ではなく再休職になってしまうというパターンです。これは会社にとっても、休職者にとっても不幸な結末です。お互いに多大な労力をかけたのにもかかわらず、振出しに戻ってしまいました。
再休職はだれの責任?
再び休職になってしまったのは誰の責任でしょうか。復帰可能と診断した主治医の責任でしょうか。それとも休職した本人の責任、または主治医の責任でしょうか。
答えは「会社の責任」になります。
先ほど紹介したストーリーの会社には当時、産業医がいませんでした。もし、産業医がいて、復帰の許可を出したとしても、責任は産業医ではなく会社が負うことになります。
重い責任を負っている会社が、主治医の診断書や休職者の意思のまま復帰を許可してよいはずがありません。
会社自身が復帰可能かどうか、復職して仕事を続けることができるかどうかを判断しなくてはなりません。
診断書には休職者の意思が反映されやすい
私も主治医として休職診断書、復職診断書を書いてきました。休職者に、どのような仕事なのか、負荷やストレスはどのくらいか、など仕事の内容を聞いて診断書を記入します。
それは休職者から聞く情報なので、休職者の意思が反映されます。
休職したい場合はよりきつめに、復職したい場合はより軽めに答える傾向にあります。その気持ちは当然のことだと思います。
また、主治医は休職者を治療している立場であり、寄り添う立場です。そのため、主治医は休職者の言葉を尊重する傾向にあります。これも当然のことだと言えます。
このように、主治医からの診断書は休職者の意思に影響されうるものであることを会社側も認識しておかなければなりません。
復職の時期についても同様のことが言えます。復職可能と指定した日=休職者が復職したい日と考えるべきで、その日に復職させなければならない医学的な根拠はありません。
主治医は職場のことを理解しているわけではない
先ほど書いたことと重なりますが、主治医は仕事内容や職場の状況について正確に把握しているわけではありません。
職場のことを正確に理解できていなければ、復帰可能かどうかは判断できないはずなのですが、限られた時間の中でそこまでできないことが現実です。
主治医が復帰可能と判断するレベル
主治医が復帰可能と判断するレベルと、仕事ができるレベルに大きな隔たりがあることも少なくありません。
復帰可能の診断書は日常生活が十分可能となった時点で出ることが多く、休職者もその状態になれば復職できると思ってしまうことがおおいです。
日常生活の心身への負荷に比べると、仕事にでの負荷はかなり大きいのが普通です。そのギャップに耐えられず、復職後に再休職してしまうことはよくあることです。
やはり会社の責任で判断することが必要
これまでの説明で主治医の診断書は絶対的なものではないということが分かっていただけたと思います。
大事なことは「主治医からの診断書」ではなく「会社の判断」で決定することです。
復職可能かどうかは会社が責任を持って判断しなければなりません。ある意味、主治医からの診断書の通りに従うよりも難しく、責任は重大であると言えると思います。
主治医の診断書が出たら、そこが復職のゴールではなく、むしろそれからがスタートです。
診断書が出されても慌てる必要はまったくありません。休職者が復帰し、その後も仕事が継続できる状態かどうか必要な時間をかけて判断しましょう。
そのためには復帰可能と言える条件を決めておく必要があるでしょう。復職決定まできちんとした段階を経て、会社と休職者が納得した形で復職に持っていくことが成功への道だと考えます。
まとめ
主治医からの診断書ではなく会社の判断で復帰させましょう
それが休職者に対する責任ある対応です
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