職域での新型コロナ予防接種開始へ
政府から、新型コロナウイルスのワクチン接種を職域で開始するという方針が出されました。ちなみに職域というのは企業や大学のことをさします。
ワクチンを接種する場所が増えるのは歓迎すべきことです。しかし、ワクチン接種の開始予定日までの期間が短く、間に合うように準備するのはかなり大変な状況です。
それに、リスクが高いと言われている高齢者や基礎疾患を持つ人がまだ終わっていない時期で、健康な会社員や大学生の接種を開始するというのもややちぐはぐな印象。
企業としては少しでも早く従業員にワクチンを打つことができれば安心と言うことは分かります。
しかし、自社の従業員を優先することで、良い印象を持たない人も少なくないようで、企業イメージが低下する可能性もあるかと思います。
まずは、地域の高齢者や基礎疾患を持つ人のワクチン接種に企業が協力し、それを終えてから自社の従業員という順番にしたら最高だと思いますが、それでは企業のメリットは少ないのでしょう。
とにかく、このような事態になっているのは企業の責任ではなく、政府の体たらくにあるため、企業側の努力を責めるのはお門違いであることは間違いありません。
企業内で産業医による予防接種は可能か
さて、ここからが本題
産業医がいれば会社内で予防接種は可能でしょうか?
労働安全衛生法第13条に、労働者が50人以上の事業場では産業医を選任することが義務づけられています。(50人未満の事業場では努力義務)
また、1,000人以上の大規模事業場では専属産業医を選任することが必要です。専属ということは常勤の産業医を置かなければならないということです。
産業医を事業場が選任している場合に、ワクチンの予防接種ができるかということについて考えてみます。
結論 企業内診療所を開く必要がある
事業場が産業医を選任していれば、企業内で予防接種が可能か。
結論は、企業内に診療所を開設していれば可能、そうでなければ不可能です。
その理由は予防接種は医療行為だからです。
予防接種は医療行為
まずは、予防接種が医療行為であることを押さえておかねばなりません。
医療行為とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為
医師法第17条
医師法第17条に照らし合わせると、予防接種は医療行為となります。
予防接種を看護師が行うことがあるのではと思う人がいるかと思いますが、この場合は医師による確認と指示があり、それを受けて看護師が接種するということになっています。
そして、医療行為を行うことができる場所には制限があります。
医療は、病院、診療所、老人保健施設、その他の医療を提供する施設、医療を受ける者の居宅等において、提供されなければならない。
平成4年7月1日 厚生省発健政第82号
上記の通り、医療行為を行うことができる施設は限定されており、医師であればどこでも行っていいというわけではないのです。
企業においても、企業内に診療所が開設されていなければ医療行為を行うことができません。
企業内で予防接種ができるかどうかは、そこに産業医がいるかどうかではなく、診療所があるかないかで決まるということです。
例えば、従業員が3000人の事業所に専属産業医が3人、保健師が10人いたとしても、そこの診療所が開設されていなければ予防接種はできません。
逆に、従業員が100人の事業所に専属産業医が1人、保健師が1人という企業でも、診療所があれば、予防接種を行うことができます。(なかなかこのようなケースはないかと思いますが。)
これは新型コロナウイルスワクチンだけではなく、インフルエンザワクチンでも全く変わりはありません。
企業内でワクチンを打つためには
企業内で予防接種をすることは不可能なのでしょうか。
以下の2つの方法が考えられます。
・臨時診療所開設の手続きを行い、産業医等の医療スタッフが接種する
・外部機関に委託し、企業は場所を提供する
インフルエンザワクチンを企業内で打つ場合は、2番目の外部機関に委託するというパターンが多いと思います。
インフルエンザワクチンも、臨時診療所を開く手続きを行えば、産業医が企業内で接種することができます。
しかし、通常はこのような手続きは取らず、外部機関に委託することがほとんどです。それは、多大なコストがかかるからです。
医療スタッフを集めたり、備品を揃えたりすることなど、自前で予防接種を行うのにはコストがかかり、費用対効果を考えると外部機関に委託した方が効率的です。
新型コロナワクチンの予防接種も同様なので、それを企業内で行うとなると、相当の努力やコストがかかるでしょう。元々、企業内診療所やグループ病院がある場合ならできるかもしれませんが、そのような企業は限られています。
産業医がいれば、企業でのワクチン接種が進むと考えている人が多いのかもしれませんが、現実にはなかなか難しいでしょう。政府は企業に丸投げではなく、もっと細かいサポートを行って欲しいと思います。
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