社長「全社員に抗体検査をやろう!」産業医「ちょっと待ってください!」

新型コロナウイルス

会社で社員に新型コロナウイルスの抗体検査を行う意義って?

社長
社長

抗体検査が陽性なら、コロナにはもうかからないって聞きました。それなら安心して仕事ができるし、出張にも行けるでしょう。

理屈としては概ね合っていますが、現時点ではそこまで言い切ることはできませんよ。

まず抗体検査がどんな検査か説明しましょう。

抗体検査とは?

抗体検査は、今までに感染したかどうかを表す検査です。陽性であれば既に感染したことがある、陰性であれば感染したことがないということを表します。

ただ、抗体検査の読み方はそう単純ではない部分もあるのです。

・抗体検査は無意味?

抗体検査の読み方について説明します。

まず、新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)にかかったかどうかを3つに分類しましょう。

  1. コロナに今までかかったことがない
  2. コロナに現在かかっている
  3. コロナに過去にかかったことがある

1は未感染、2は現在感染、3は既感染という状態です。誰もがどれかの状態に当てはまるはずです。

抗体検査を行えば1が陰性、3が陽性になるはずと予測できそうなものですが、果たしてそうなのでしょうか。

答えは、1.2.3のどの状態であっても抗体検査が陽性にもなるし、陰性にもなるのです。

抗体検査が陰性の場合

  1. 感染したことがないという可能性

抗体検査が陰性で、今までにコロナにかかっていないという状況は問題なく受け入れられるでしょう。

日本における現在の感染状況を考えると、この状態が圧倒的に多いでしょう。

 2.現在感染しているという可能性

抗体は感染してすぐにできるわけではありません。

新型コロナウイルスに対するIgG抗体は感染後1週間後以降にできると言われています。なので、感染していたとしても感染してからすぐに抗体検査を行った場合は抗体ができておらず陰性という結果がでることがあるということです。

 3.過去に感染したことがあるという可能性

過去に感染したことがあれば抗体が陽性のはずですが、陰性になることがあるのでしょうか。

抗体というのは感染してしばらくは高い値を維持するのですが、その後徐々に抗体は減っていきます。

今回の新型コロナウイルスも同様に期間を経るごとに抗体が減り、感染したことがあるのにも関わらず抗体検査が陰性になる可能性があることが考えられます。

抗体検査が陽性の場合

  1. 感染したことがないという可能性

抗体検査が陽性にも関わらず、感染したことがないというというのはどういう状況でしょうか。

これはいわゆる偽陽性というものです。感染しておらず抗体がないのに、陽性という間違った結果が出てしまうということです。

実際、2019年の検体(まだ新型コロナウイルスが流行していない時期)で抗体検査が陽性になったということが報告されています。

偽陽性の場合、感染したことがないのに感染したことがあると思い込み、油断して感染予防をしなくなってしまうのは大いに問題です。

 2.現在感染しているという可能性

現在感染している状態で抗体検査が陽性という場合、感染後期の状態と考えられます。PCR検査を受け、現在感染していることを確定させる必要があります。

ただ、抗体検査が陽性だからといって無症状、周りに感染者がいないという場合には現在のシステムではPCR検査を受けられない可能性が高いです。

自主的に2週間仕事を休み、自宅隔離する以外には今のところ方法はないでしょう。

 3.過去に感染したことがしたことがあるという可能性

過去に感染したことがあり、抗体検査が陽性というパターンは理解しやすいでしょう。しかし、一つ上の状態と同じで過去に感染したのか、現在感染しているのかはPCR検査を受けなければ確定できません。

こちらも2週間の自宅隔離を行う必要があるでしょう。

この通り、抗体検査の結果が何であれ、どの状態か確定はできないということなのです。

社長
社長

そうすると、お金をかけて検査をしても意味ないかあ。

もう一つ、抗体検査をやりたくなくなる話をしましょう

抗体が陽性であっても再感染しないか

抗体検査が陽性であっても、偽陽性の可能性もあるという話は抜きにしてシンプルに話を進めていきます。以前、新型コロナウイルスに感染して、抗体検査が陽性だったとしましょう。

社長
社長

それだったらその人はもうかからないから安心だね。

そうだといいですけどね…

抗体陽性であれば再感染しない、そのため出張や海外も安心して行けるというのは本当でしょうか。

現在ではそれについては分かっていません。

例を挙げると、インフルエンザがあります。インフルエンザにはA型とB型があり、A型にかかったとしても、次にB型にかかるというのはよくある話です。

また、抗体の量が十分でない場合にも再感染する可能性があります。風疹に一度かかり、その後風疹抗体の数値が減ってしまい、再度風疹に感染するというパターンもあります。

そのあたりのことについて、新型コロナウイルスは分かっていないので抗体が陽性であっても決して安心ではないのです。

社長
社長

では先生、抗体検査というのはどういう理由でやっているんですか?

今行われているのは疫学調査です。どれだけ感染した人がいるかというデータを出すために行われています。

診断や治療では使われていません。

社長がこの地域の疫学調査に貢献したいというのであれば、社内での抗体検査を行うと良いと思います。

社長
社長

わが社にそんな余裕はありません。抗体検査を行う案はボツにします。

意味のない抗体検査にお金をかけることはよくよく考えてからにしましょう!

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