ヨウ素とは? ヨードとは?
ヨウ素はヨードとも呼ばれます。ヨウ素とヨードは呼び方が違うだけで同じものです。
人の体にはヨードが10~15mg程度あるのですが、その80~90%が甲状腺に含まれています。体にあるヨードのほとんどが甲状腺という小さい臓器に存在しています。
食物に含まれているヨードは小腸で吸収され、甲状腺に運ばれ、甲状腺ホルモンの合成に利用されます。甲状腺ホルモンは、全身の代謝を活性化する役割があり、成長や生命の維持にとても重要な役割を果たしています。
甲状腺ホルモンはヨードがないと作ることができないため、ヨードは人間にとって非常に重要な物質です。ヨードが欠乏すると甲状腺ホルモンが合成できないため、甲状腺機能低下症や甲状腺腫という状態を引き起こすため、注意が必要です。
日本人のヨード摂取量は?
ここまでヨードが重要であると強調してきましたが、日本人の場合、ヨードが不足するということはまずありません。日本人は、ヨードを多く含んでいる海産物を多く食べるからです。
厚生労働省による「日本人の食事摂取基準の概要(2015)」では、成人のヨード摂取推奨量は1日当たり130μgとされています。この量は普通に食事を行っていれば、問題なく摂取できる量です。
そのため、日本人にはヨードにまつわる問題点は無いように思えるのですが、そうではありません。
ヨードの過剰摂取で甲状腺機能低下症に
先ほどヨードが欠乏していると甲状腺機能低下症になると書きましたが、ヨードは取りすぎても甲状腺機能低下症になってしまいます。ヨードの摂取は少なすぎてもダメ、多すぎてもダメなのです。
ヨード過剰摂取時のからだの反応
ヨードを過剰摂取すると、甲状腺細胞が甲状腺ホルモンを合成することが抑えられます。これはWolff-Chaikoff(ウォルフ・チャイコフ)効果と呼ばれる現象で、甲状腺ホルモンを大量に合成するのを防ぐ仕組みなのです。
「日本人の食事摂取基準の概要(2015)」では、成人におけるヨードの耐容上限量は1日あたり3,000μgとされています。耐容上限量というのは、健康に有害作用を起こすとは考えにくい最大摂取量で、摂取量がこの量を越えないようにしましょうという目安です。
ヨードは昆布だしに多く含まれるので、これを使った和食を食べると容易に1日3,000μgという量を越えてしまいます。
ということは、和食を続けて食べると甲状腺ホルモンの合成が低下してしまい、甲状腺機能低下症を引き起こすはずですが、そのようにはなりません。
そのようになる前に、ヨードを輸送するタンパクが減り、甲状腺細胞内に入るヨードが抑えられ、Wolff-Chaikoff効果は消失するからです。このシステムによって甲状腺ホルモンの合成は正常に保たれます。これをWolff-Chaikoff効果からのescape(エスケープ)現象といいます。
このようにヨードを過剰摂取した場合でも、生体内で上手に調節が行われ、甲状腺ホルモンを正常に保つ仕組みになっています。
escape(エスケープ)現象が働かない場合に甲状腺ホルモンが低下する
Wolff-Chaikoff効果からのescape現象が働いていれば、甲状腺ホルモンは低下しないのですが、escape現象が正常に働かない場合があります。
それは橋本病(慢性甲状腺炎)、バセドウ病の手術やアイソトープ治療後、高齢者などでそのような状態が現れます。また、健康療法で時々見られるのですが、根昆布、昆布だしなど海藻類を極端に多く摂取することを続けた場合もescape現象は働きません。そのような場合ではヨード摂取を制限する必要があります。
食品別 1回目安量あたりのヨード量
それでは、具体的にどの食品にヨードが多く含まれるのでしょうか。
[table id=1 /]
「日本食品標準成分表2010の活用;日本食生活学会誌22:49-56,2011」より
これを見ると海藻類に多くのヨードが含まれていることが分かります。特に昆布に、多く含まれており、1回目安量で1日の耐容上限量3,000μgを超えてしまいます。
意外なところではレトルトカレーもヨードが多く含まれています。味付けや隠し味として昆布が使われているような食品には注意が必要です。
橋本病(慢性甲状腺炎)などの甲状腺機能低下症を引き起こすような基礎疾患を持つ場合は、この表に載っている食品については過剰に摂取することを控える必要があるといえるでしょう。
甲状腺疾患に関する食事の注意点 まとめ
- 日本ではヨード欠乏は考えなくても良い
- ヨードの過剰摂取により甲状腺ホルモンが低下する
ヨードの過剰摂取があるとWolff-Chaikoff効果により甲状腺ホルモン合成が低下する
- しかし、通常そのホルモン低下は一過性である
Wolff-Chaikoff効果はescape現象により消失するため、甲状腺ホルモンの低下は一過性である。
- 甲状腺機能低下症を引き起こすような基礎疾患が有る場合は、ヨードの過剰摂取を控える
橋本病などの甲状腺機能低下症を引き起こすような状態ではescape現象が働かないため、ヨードの過剰摂取があると、甲状腺ホルモンの低下が持続する。そのためヨードの過剰摂取を控える必要がある。
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